あまいもの 風は吹き続ける。 「ひさしぶりやなぁ。やっぱ都会は色んな建物あってオモロそうやな」 ビルの上に小さな影があった。地上から見上げたそれは小鳥が屋根にとまっているかのようにしか見えないほどの、高い高い、ビルの上に男はいた。 暗闇でなかったならば太陽に光が反射して眩しいだろう金髪を惜しくも無く曝け出して男はニタリと気味悪く笑う。飢えた肉食動物が獲物を見つけたかのような気味の悪い光を眼に宿しながら。男は暗い空に飛んでいった。楽しそうに、楽しそうに、獲物を仕留めるかのごとくトリックをきめながら飛んでいった。 「……何や、えらい楽しそうやな。」 「自分の後継ぎはんが出た言う噂を聞いてな。言うてもまだまだひよっこ何やろ」 「もう、そないなとこまで行ってるんか。ほんで、会うたんか」 「まだや。これから行くとこや。カラスはん、直々に呼ばれて、な」 「、自分ボケの腕も落ちたんか」 「はっ…空やろ。ツッコミの腕落ちたんは。まあええ、行くわ。ほなな」 車椅子の男、空と呼ばれた男は、先程まで話していた男がいた場所を横目でチラリと見て深い溜息をついた。もう、風は吹いていなかった。楽しそうに、高い高いビルの合間を飛ぶ男を繋ぎとめるのには、その男にはなす術がなくて、ただ、疲れた。 がカラスを気に入るか、気に入らぬか。カラスの運命は変わる。 まだ、カラスには消えては欲しくない。時期、空の王に最も近い男。これから必ず必要になってくる。ジェネンスだけにではない、A・Tに関わるすべての人に。 だが、空は、空には、はカラスを気に入るような気がした。 弱いものが嫌いな。カラスはまだ弱い。だがならば見つけるだろう、カラスの中にある大きなツバサを。そしてカラスの運命を捻じ曲げていくのだろう。 (2007。06。01。。第二段) |