| 2 良い天気の日だった。 真冬だったがじっと陽に当たっているとほんのりとその部分が温かくなる。 そんな天気。そう、間もない内に春が訪れるだろう、と思い始めるような日だった。 思い切り羽根を広げて空を飛びたくなった。 私は実験体だった。 人工授精で産まれた、実験のためのヒト。 人体実験は禁じられているために、私たちの存在は隠密だった。公には。 そう、国で禁じているにも関わらず、国が私たちを求めた。 次々と死んでいく仲間たち。怯える仲間たち。 だけど私はそれすらも時が経つにつれて薄らいでいった。 恐怖というものを私は取り除かれた。 感情が一部欠落した私と一部の仲間たち。失敗作だと誰かが口にした。 私たちはイラナイモノなのだと直感的に感じた。 私は恐怖だったが、他の者達は様々だった。 喜びだったり、悲しみだったり、好奇心だったり、意欲だったり。 恐怖が欠落したのは私だけだったみたいだ。 処分の場で、皆、恐がっていた。なぜ、恐いのかわからなかった。 そこで一人何の感情も出さなかったのが目立ったのだろう。 博士たちが私を指差し何か囁いていた。 そして一人だけ連れ出される。処分されなかった。 恐怖がないのは都合がいいそうだ。今まで感じた恐怖と言うのが思い出せなかった。 それから私は色々なところを弄くりまわされ、色々な薬を試し、成功品となった。 私の知っている仲間は誰一人として残ってはいなかった。 ただ、博士が私の中では絶対の神だった。 博士の命令で仲間を殺した事がある。 気が狂い博士に向かって抵抗したものを殺したこともある。 仲間への特別な感情は何もなかった。 ただ、『私と同じ』実験体なんだという意識だけだった。 私の中では博士は神だった。そうやって教育されてきたのだ。 この生活が普通なんだと、教育されていたのだ。 ある日、気が付けば私は鳥だった。実験が成功したのだ。 始めの頃は大変だった。 コントロールが出来ずに、イキナリ羽根がはえたり戻れなくなったりした。 羽根が生えるときは体じゅうに激痛がはしった。 だけど私は実験体だからしかたがなかった。 しばらくしたら痛みにも慣れ、コントロールが上手くいくようになった。 またある日、死ななくなった。実験が成功したのだ。 心臓を抉り出されてもすぐに新しい心臓が作り直された。 でも、博士が持っているウイルスを打たれると死んでしまうらしい。 これでドナーがいっぱい作れると博士と周りのヒトが喜んでいた。 何回も何回もくり返し、内臓が取り出されては作り直されていった。 そしてある日、私は博士と外へ行くことになった。 鳥になって籠へ入った。飛行機にのって私たちは飛びたった。 自分の羽以外で飛ぶというのは不思議なものだった。 そして、外の世界には色々な物やヒトがあった。 博士と主人は一言二言、言葉を交わし私を籠ごと主人へ渡した。 私は神のもとから離されたのである。 主人は私を買ったらしい。ただの趣味だそうだ。 金持ちは悪趣味だとご自分で話されていた。 良い天気の日だった。 真冬だったがじっと陽に当たっているとほんのりとその部分が温かくなる。 そんな天気。そう、間もない内に春が訪れるだろう、と思い始めるような日だった。 思い切り羽根を広げて空を飛びたくなった。 私は鳥かごを壊して窓を割って空へ羽ばたいた。 神と主人への初めての反逆だった。 さようなら、ご主人様。 さようなら、私の神様。 あなた達が綺麗だと言ってくれた白い羽根を一枚置いて行きましょう。 (08.03.20)あれ、短編を書くつもりやったのに…? |